180 : 家具師[sage] 2006/05/24(水) 01:56:53 ID:aSOVGDWh0
都内も道を外れると、意外に暗く蟠るものである。
歓楽街にしてもそう。国道の流れを組むメインストリートを外れれば、それは容易く法律からも外れる事を浅く意味する。
そんな路地裏に一つのビルがある。地上六階地下三階の小さなビルだ。
目に見える所の看板を信じれば、テナントはSMクラブとバー。
あとは精々金融業といった所か。
しかし、人が往来し人の目に付く一階。
ショーウィンドを壁にしたそれは骨董家具屋だった。
『インテリアス』
母が付けた名前だったなと、私は今更ながらに口にする。
クセの強い肩まで髪を乱暴に梳いて、一面を抜けるガラスに映った自分を見れば、職人堅気の神経質そうな女性が睨んでいる。自分の顔ながら、それは相も変わらず疲れて見えた。
ノンフレームの眼鏡が、一層それを際立たせているとも思っている。
薄汚れた乳白色の作業着を隠すように着込む紺のエプロンも、何かしらの塵とゴミで汚れている。
私は身なりを気にする方ではないが、母からはよく注意された。しかし、職業柄汚れる物はしょうがないのだ。
そんな有様の自分に溜息を吐いて、見上げた窓越しの空は狭い。
周囲をビルで囲まれてる以上、こればかりは避けられない生活環境だ。
夕暮れまでまだ遠いと言うのに、店内には既に影が射している。
それを払拭させんがために点けた白熱電球はシャンデリアのイミテーション。
お世辞にも上品とはいい難いが、シックで洋風気取りの店内には不思議と合っていた。
もっとも、そこに並んでいるのは、自分が使うわけでもない多くの椅子や机。
そして無駄に場所を取る装飾過剰なベッドや箪笥といった物ばかりで、生活感といったものは皆無だ。
ほとんどがリサイクル品。どうせ売った所で二足三文な物ばかりである。
しかし売るともなれば口車と合わせて数倍は吹っかけるつもりでいる。
そんな事を独り思い、自虐的に嘲っていると、ある時、入り口のベルがカランカランと音を立てた。
開いた扉より影が伸びる。お客様だ。